2002年9月29日 ハイパーリンク追加情報処理教育研究集会, 情報処理学会での調査研究 関谷へのメッセージ
(紀要93) 1994.3.3 北九州職業能力開発短期大学校 情報処理科 関谷順太
情報システム系など情報処理専門家の教育の基礎でもあり,情報処理を専門としない一般人 への情報処理教育についての展望と著者が担当した北九州大学での事例を述べる。
情報教育については,文部省の小・中・高校の新学習指導要領による教育が実施されつつあり,大学等での情報処理教育のありかたについての調査研究もいくつか行われている。またここ数年,大学等での一般情報処理教育に関しての研究集会が開催され,その報告が出ている。社会人の教育について,情報化人材との関連で,新しいカリキュラムが作られつつある。
北九州大学での「情報処理概論」(93年度から,通年で4単位)は,法学部,文学部や外 国語学部などの1年生の選択科目である。文部省が中学で予定しているようなコンピュータリテラシー教育にあたる。その実施した内容と学生の反響などについて報告する。
著者は,当短大の情報シテスム系教員として4年目を迎えた。その間,平成2年度に,「短大あり方の検討」がなされ,カリキュラムの見直しが行われた。それによって,情報システム系でのカリキュラムは,昨年度の入学生分から切り替わった。今年は,2年生分も実施している。
一方,来年度の在職者向けの能開セミナーの計画では,コースの体系化の検討を行った。それらに対応する,国内での情報処理に関連するカリキュラム検討の動きを展望する。
さて,北九州大学では,学部学科の再編に伴い,平成5年度から一般の学生に対して,コンピュータリテラシーの教科「情報処理概論」(1年生向けの選択で,通年で4単位)が,作られた。その非常勤講師の要請を受け,情報システム系から,3名が担当した。その1名としての事例を報告する。
大学等における情報処理教育についての調査研究は,情報処理学会での報告2),3),4),5),6), 7)や, この数年間,毎年開催されている文部省と幹事大学の情報処理教育センターによる「情報処理教育研究集会」8)などがある。
その検討では,情報処理教育をその対象者によって,情報系専門教育と一般情報処理教育に分けている。上の研究集会は, 後者を対象にしている。なお,専門教育の場合も,その基礎としては,一般情報処理教育を必要とする。
社会人の教育については,産業構造審議会情報産業部会の情報化人材対策小委員会で,「新情報化人材像」9),10)の提言がなされた。それに対応する情報処理技術者試験と関連して,「新情報化人材育成カリキュラム」の検討が進められている11) 。
この分野も,2つに分類することができる。一つは,コンピュータサイエンス(計算機科学)であり,他方が,情報システム学(Informa-tion Systems) である。情報システム学は,コンピュータサイエンスを含んだものである。
大学等では, コンピュータ・電子・通信などに重点を置く学科が前者に分けられる。そして経営工学, 管理工学など経営情報系学科が後者である。短大でのあり方の科は, 強いて関連を言えば,情報技術科が前者に近く, 情報処理科が後者に近いであろう。
情報処理学会のCS分科会では,情報工学・情報科学は,情報処理の基礎と応用に関する系統的な学問であり,問題のモデル化・定式化,問題解決の手順(アルゴリズム),仕掛けの構造(アーキテクチャ),システムの構築方法などを不可欠の内容とするものであり,その基盤は学問としての計算機分野にあるとしている。
そして暫定モデルカリキュラム案(J90)を提言している。
大学等における情報システム学の教育については, 情報処理学会などでの検討が行われている7),12)。学部での教育の実施が相当に難しいことも報告されている。単にコンピュータのことが分かれば, 情報システムが設計出来るものではなく, 対象分野の知識が, 要求されるからである。
高校には,情報処理の専門家の養成を行う職業教科の科目があるが,それを除く。
平成元年の3月に新学習指導要領が告示され情報化への対応が盛り込まれている。小学校では93年度から「パソコンに親しむ」教育が始まった。中学校では,94年度から,技術家庭科の領域の中に『F情報基礎』を選択として入れており,20〜30単位時間の取扱を標準としている。そこでは,「簡単なプログラム作成」と「ソフトウェア(日本語ワープロ,表計算など)を用いて情報の活用する」などを行う。 高校でも94年度から,コンピュータを利用して応用数学を学ぶ「数学C」などが加わる。
前述したが,文部省と幹事大学との共催による情報処理教育研究集会が,既に6回行われている8)。また,情報処理学会での調査研究が,報告されている5),6) 。
参考文献6では,母体となる学問分野は,コンピュータサイエンス(計算機科学)であるとした。そして,コンピュータサイエンスの基礎的概念を,頻出概念(Recurring Concepts) として,12項目紹介している。具体的な教育内容として,コンピュータリテラシー教育,「プログラミング」教育,教養・概念教育の3つの教育項目を提示している。
なお,慶応義塾大学 湘南藤沢キャンパスのように,ワークステーションによるコンピュータリテラシー教育を開始しているところもある。15)
企業における情報処理技術者の類型について「新情報化人材像」が,産業構造審議会情報産業部会の情報化人材対策小委員会で,9種提言された9),10)。 1 プロジェクト・マネジャ, 2 システム運用管理エンジニア, 3 システム・アナリスト, 4 教育エンジニア, 5 ディベロップメント・エンジニア, 6 アプリケーション・エンジニア, 7 プロダクション・エンジニア, 8 テクニカル・スペシャリスト, 9 システム・アドミニストレータである。この人材像との関連で, 企業内教育および学校教育(例えば情報専門学校)双方にむけて,通商産業省系の財団法人日本情報処理開発協会・中央情報教育研究所で,「新情報化人材育成カリキュラム」の検討が行われている11) 。
このカリキュラムは,今後の当短大での情報システム系の能開セミナーなどのモデルとしても, 参考にする必要がある。その理由は,短大での情報システム系の能開セミナーの対象者が在職者であり,彼らの社内での参照するカリキュラムの基本となるであろうからである。
大学での一般情報処理教育の事例として,著者が非常勤講師として,担当した北九州大学での経験等を報告する。
北九州大学は,4学部(更に夜間に2学部)で,入学定員1170人の大学である。大学院(修士課程)と,付属機関として北九州産業社会研究所などを持つ。
平成5年4月に学部・学科の再編を行っている。情報システム学関連では,前の商学部・経営学科が,再編後は経済学部・経営情報学科になっている。
情報処理の専門家でない一般の学科の一年生のコンピュータ・リテラシー教科として,「コンピュータ総論」(講義4単位)と「情報処理概論」(演習4単位)がある。いずれも選択科目である。講義の科目は,大教室で一度に行えるが,演習は最大でも60名として計画されていた。
1年生向けの一般のリテラシー教育であり,現在は,高校までに,情報処理教育を受けていないため(同時進行のため)中学校などで行うものと学習目標は同じである。
授業の内容を決め,それに近いキテスト18) を選定した。
導入されたソフトが,HARMONYであった。このソフトは,一太郎とロータス・ワークスを統合したソフトであり,機能や操作が,元のソフトとは,少し違っている。従って,演習では,その点で,テキストの修正や追加などを必要とした。
また,日本語FEPは,WXIIである。HARMONYでのキー入力で,半角の文字の入力が出来ないケースが,何回か発生した。
情報処理概論,データ処理,基礎演習,演習1などの授業で,週に21コマが行われた。授業時間以外は,午前9時から午後9時まで(水曜日は午後5時まで)利用できる。以下に機器等を示す。
〔ハードウェア〕 本体 PC9821AP/U2主記憶 HD サーバ 1台(32MB) 1000MB クライアント教員用 1台(12MB) 120MB 学生用64台(12MB) 120MB (JIS キーボート, マウスが付く。) ディスプレイ 17 インチ, ハイレゾ FDD 学生用は3.5"2 台 その他は3.5"と5.25" 各1 台 プリンタ 学生用8 台 教員用1 台 CD−ROM 教員用1 台 OHP用液晶パネル 教員用1 台 無停電電源装置,バックアップ装置,自動運転装置が付く。 〔ソフトウェア〕 基本ソフト 日本語MS−DOS 3.3D 日本語MS-WINDOWS 3.0B VZエディタ 日本語FEP(WXII,-WIN) NetWare386 授業用ソフト HARMONY 日本語SAS Quick BASIC Quick C Turbo Pascal
著者のクラスは,8名と34名とであった。1時限目は,敬遠されていることがわかった。
新学期に配布されたシラバスに準じて授業を進めたが,導入ソフトや機器の関係で「グラフィックスソフト」,「パソコン通信」についての授業を小生は省略した。
導入したソフトが,テキストで説明しているものと違うための操作の差異について,コマンドツリーのコピー配布などをした。これでは,学生の自習には,分かりにくかったと思う。
1)キー入力練習を,はじめの数回,増田の方法によって行った19),20) 。英字キー(のあと,ローマ字かな)の入力の練習法を説明して,30分程度練習を行った。この要領で,授業の時間外に各自の練習を行って欲しかったのだけど,それは,殆どやっていなかった。それでも,どうにか,ブラインドタッチができているようである。(幾らかの学生は,身に付いていない。)
2)レポートの収集は,出来るだけ,テキストファイルなど,LANでの提出とした。(表計算や,データベースでは,特定のファイルや印刷したものもある。)。これによって,学生は,出席カードのかわりに,保存したファイルのコピーを行った。戸惑いもあったが,いくらかは,LANの便利さを知ったと思う。
3)日本語ワープロでの実習は,テーマを与えての作文(自己紹介,高校の先生への手紙,何故この学科を選んだか,私の将来の夢)や暑中見舞いの作成とした。この実習は,キー入力の練習となった。ブラインド・タッチの必要性を実感したと思う。また,文章の入力の後,編集や校正を行って,ワープロの基本的な使い方を身に付けた。
4)表計算では,テキストの表の入力,グラフの作成・印刷の後に,自分の作りたい表を作った。残念ながら,計算の無い表などもあった。他の授業などで,表を作って計算したり,グラフを作ることが,無いのだろうか?そうであれば,こちらで,課題を幾つか用意して選択させるべきかもしれない。
5)データベースでも、表計算と同じ方法で学習した。ただし,データの大量の入力は時間が掛かるので,こちらで,予め入力したものを2回目からは使っての実習とした。各自の作成したデータベースでは,住所録が多かった。その他に家計簿,CD,店,野球人名,競馬情報などもあった。学生では,これの使用頻度が,少ないように感じている。(ラベル印刷程度か)
6)ブログラミング言語は,Quick Cを選んだ。(他の先生方はQuick BASICなど)。統合環境なので,コンパイルリンクなどは注意しなくても,実行できる。自分の名前を表示したり,四則演算,分岐や反復程度の初歩をテキストを使いながら,学習した。グラフィックスでは,サンプル・プログラムとして,亀グラフィックス(及び,コッホ曲線,ヒルベルト曲線)を用意して,それを実行しながら,再帰などの概念を説明した。
ファイルなどによるレポートには,理解度や感想,あるいは,授業への希望などを書いてもらっていた。また定期試験の問題で,キー入力練習の考察を1問作った。それらの中から幾つかを紹介する。
1)授業への希望:「しっかりとパソコンを扱えるようになりたい。(パソコンと友達になりたい。)」,「分かりやすい」「分かりやすくしてほしい。」,「人数が少ないので質問がしやすい。」などがあった。
2)恩師への手紙:入学してからの大学生活が予想と違うことなどがあった。「予習復習が大変だ。」という学生と,「何もすることが無いので,退屈だ。」と極端に分かれる。一人暮らしでの大変さも多かった。アルバイト,ゼミ,サークルなどの話題が多い。
3)学科を選んだ理由:法学部の学生のため,「法律の勉強がしたかった。」「公務員になりたかった。」のほかに,入学試験の2次試験が小論文だけだったので,選択したと言う学生がいた。
4)私の将来の夢:法曹界を始めとして,公務員などのいろいろな職業や趣味を書いたものがおおかった。「器の大きな人間」でよき指導者になりたいと言うものあった。
5)夏休みの思い出:2ヵ月のブランクがあったので,始めに少しキータッチの練習をした。しかし,これが,一番長い行数になっていた。ブラインドタッチがある程度,身に付いていたのだと思う。
6)ブラインドタッチ:右手に較べて左手があやふやとか,幾つかのキー(薬指や小指)があやふやというのがあった。半数程度の学生が,スピードが遅いとか間違えることがあっても,ブラインドで出来るようになったと前期の試験(9 月22日) で評価していた。
7)ローマ字入力:ローマ字かな入力を授業で説明したため,家ではカナキーと使い分けている学生がいた。説明が不十分だった。
8)単語登録,漢字変換:自分の名前などを登録しておくため,同じパソコンを使っている学生が多かった。漢字変換については,まだ,文節毎の方が使いやすいようであった。
9) データベース: 学生では,個人の大量のデータの処理の必要が無いために, 住所録程度になっている。ただし, 大量だと, それだけ入力の手間が掛かる。
10)Quick Cのプログラミング: 1回目は各自の名前の表示(複写して数行)をしたのだが,エディタの操作法と新しいC言語の意味とで,「全然分からなかった。」との感想が多かった。 2回目は,四則演算で,ようやく, 操作に慣れた。3回目は,選択構造で,経営相談の例が面白かったという。4回目は反復構造で亀グラフィックスは, 興味を持っていた。5回目が各自の作図だったが,時間不足で, 例題で終わったものが多かった。
1)情報処理教育のカリキュラム等の検討の動向を専門教育と一般教育,社会人教育に分けて紹介した。最後の分野は今後の情報システム系の能開セミナーの参考となる。
2)北九州大学での一般情報処理教育の事例を述べた。リテラシー教育であるが, 学生の興味を持てる題材などに, 工夫をする必要がある。
謝辞 この非常勤講師の機会を作り,支援して頂いている北九州大学の棚次教授と教務課の担当の方々,および当短大の情報システム系職員,特にいろいろと相談にのっていただいている平澤先生・長野先生に感謝します。
1)小口日出彦:ソフト技術者育成政策−10年先にらみ始動−,日経コンピュータ, 1993.11.29, pp.60-73, 1993.112)野口正一・中森真理雄:大学等における情報処理教育の諸問題−平成元年度の調査研究を中心として−,情報処理, Vol.31, No.10, pp.1373-1380, 1990.10
3)野口正一他:大学等における情報系専門教育の改善への提言,情報処理,Vol.32,No.10, pp.1079-1092, 1991.10
4)情報処理学会大学等における情報処理教育検討委員会:大学等における情報処理教育のための調査研究報告書,情報処理学会,1991.3
5)大岩元:一般情報教育,情報処理,Vol.32, No.11, pp.1184-1188, 1991.11
6)大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究委員会:大学等における一般情報処理教育の在り方に関する調査研究−平成4年度報告書−,情報処理学会,1993.3
7)大学等における情報システム学の教育の実態に関する調査研究委員会:大学等における情報システム学の教育の実態に関する調査研究,情報処理学会,1992.3
8)名古屋大学情報処理教育センター編:平成5年度情報処理教育研究集会講演論文集,1993
9)通商産業省機械情報産業局編:新情報革命を支える人材像,コンピュータ・エージ社,pp.53-158,1993
10)通商産業省機械情報産業局編:ソフトウェアの適正な取引を目指して,コンピュータ・エージ社,pp.63-95,1993.7
11)日本情報処理開発協会中央情報教育研究所:高度情報化人材育成標準カリキュラムVol.1 第2種共通カリキュラム,1993.12,Vol.2 第1種共通カリキュラム,1993.12
12)細野公男・浦昭二:情報システム人材の教育体系の確立について,情報処理,Vol.34, No.6, pp.778-788, 1993.6
13)文部省:情報教育に関する手引,1991.7
14)文部省編:我が国の文教政策(平成5年度)−「文化発信社会」に向けて,大蔵省印刷局,pp.487-501,1993.11
15)安村通晃・有澤誠・斎藤信男:コンピュータリテラシー教育の一事例,情報処理,Vol.32, No.12, pp.1310-1317, 1991.12
16)北九州大学:1993大学案内,1993
17)北九州大学法学部第1部:平成5年度シラバス,pp.58-60, 1993.4
18)江崎和夫:パソコン活用法−ワープロからプログラミングまで−,共立出版,1990.6
19)増田忠:キーボードを3時間でマスターする法,日本経済新聞社,1987.11
20)木村泉:ワープロ徹底操縦法,岩波新書(新赤版)164, pp.112-147, 1991.3
レビュー:情報基礎教育の理念とカリキュラム、広島商船高等専門学校 松島 勇雄、ミニシンポジウム「これからの情報基礎教育を考える」1998.7.4
宇宙線物理学・宇宙物理学そして計算機科学 神戸女子短期大学 浅木森研究室のサイト、 情報教育や情報教育集会のページもある。
2002年9月29日 ハイパーリンク追加情報処理教育研究集会, 情報処理学会での調査研究
2001年2月26日 HTMLファイルへの編集・ハイパーリンク付けとUpload